聞きかじりのちっぽけな知識

学校が終わり、夕暮れ時を過ぎて暫くした頃
地下鉄に乗っていた
新宿から少し過ぎたその場所がどこだったのか
正確には覚えていない


地下鉄の駅を降りて、既に陽が落ちていた街中を
仕事帰りのサラリーマンとすれ違いながらほんの少しだけ歩くと
そこは映画館だった


ときにして今から23年前の秋
高校生だった


試写会を見るために訪れたその映画館
幕が開けると、そこは自分の知らない世界が始まった


オリバーストーン監督の「サルバドル」
プラトーン」がヒットしたので、急遽、その前作が公開されることになったのだ
その試写会で見たその映像
今でも忘れない


始まってすぐに、主人公は、金を稼ぐためにエルサルバドルに向かう
車の中で彼が見た風景
反乱軍なのか、政府側の軍人なのか覚えていないけれど
彼らに囲まれた、名もなき一般の小さな子供
正座をさせられ、手は頭の後ろに
その子供は、騒ぐでもなく、何が起きているのかわかっているのか
無抵抗なその子供は、乾いたライフルの銃声で短い命を終えた
劇的な死ではなく、激しい銃撃戦でもなく
たった一発の安っぽいライフルでその命を終えた
子供がそんな風に殺されても、警察がくるでもなく
それは当たり前の普通の生活のように誰も見向きもしない
道に舞う白い砂埃
小さな彼の命もまた、空に舞ってゆく


そんな戦争の場に写真をとりに行く主人公
そして彼の友人の同じくカメラマン


その友人は戦闘機の銃の雨に撃たれることを恐れず
その瞬間をとらえたいという情熱を持ってファインダーをのぞく
撃たれる間際、その友人の顔は恐怖には怯えていない
笑ったんだ
ニヤッと
主人公の方を見て、見てろよ、俺が今、決定的瞬間をとらえるからと
ハッ〜っと息を吐き
今こそ、その瞬間をとらえることができるんだという武者震い

報道関係だと明らかにわかる人間は、撃ってはいけないというのが世界のルールだと聞いていた
けれども、そんなルールになんの意味がるのかとあざ笑うかのように、彼は撃たれる
文字通り、低空飛行をした戦闘機の的になり、彼は死んだ


当初、危険を冒してまで写真を撮り続けることに抵抗を感じていた主人公は、その彼が撃たれるところを見て、そのフィルムを守ろうと決意する
そのとき初めて彼は、真実を伝えたい、友人が命と引き換えに撮影したこのフィルムを持ち帰って報道したい、そう心に誓う
真実を伝えたいという情熱
高校生の自分には熱い思いとなる


23年前に見た切り、その後1度も見ていないこの映画だけれど、
はっきりと覚えている


報道関係者は撃たれない
本か何かで聞きかじったちっぽけな知識
そのときは、映画なんだから誇張しているのかな
本当はどうなんだろうなと疑問に感じたけれど、やがてその気持ちも忘れ、いつしか月日は流れていった


渡部陽一氏という戦場カメラマンがいることを教えられた
彼は言った
戦争で実際の現場では、カメラマンは真っ先に撃たれますよと


カメラマンは撃ってはいけない
それはルールとしてはあるけれど、実際の現場では意味のないもの
考えてみれば当たり前
そのルールは誰がつくったのだ
現場にいる兵士たち
彼らは、先に撃たなければ自分が殺される
理性なんて存在しない
ただ目の前にいる動くものを殺すだけ
カメラマンのふりをして目の前に迫ってきて、撃たれる可能性だってあるのだから
戦争の現場では、倫理など存在しないに等しい
そこに青臭い正義などない
あるのは、何人の人間を殺したのか
多く殺した方が正義
一人でも多くの人間を殺した方が、戦争の勝者


そんな過酷な状況で、カメラマンは撃ってはいけないなどというルールが何の意味を持つというのか
実際に戦争現場を撮影しているカメラマンならではの話はとても重い


本やテレビで聞きかじったちっぽけな知識
それが何千、何万とあろうとも
真実を知る人間が語るたった一言にも、その重さはかなわない




動画が少ないのが残念度    ☆☆☆☆
アルバムも少ないのが残念度  ☆☆☆
とぼけたその髪型がセクシー度 ☆☆☆